【短編小説 8】いつもの朝がやってくる
ああ、今日もまた、いつも通りの朝が来る。
いつもの通り、いつもの時間。
きっかり6時18分30秒で、俺は目が覚める。
ベッドから起き上がり、服を着替えて、枕元においてある銃を手に取る。
ハンドガンで、少し小ぶりのアンティークものだ。
旧時代のものだから、これが一体どこの会社の、どんな名前で呼ばれていたものかは、もはや今となってはわからない。
百年ほど前に栄えた、「トウキョウ」と呼ばれた都市の遺跡で拾ったものだが、骨董品ながらなかなかいい働きをしてくれる。
弾の装填が6発しか出来ないうえ、いちいち撃鉄をあげなきゃならない、シングルアクションタイプってのは痛いところだが、少し癖がありながらも、コツさえつかめば、現在主流のアームガンより使いやすいし、小回りが効く。
銃を腰のホルスターに入れると、俺は冷蔵庫を開ける。
入っているのは、ミルクとコーンビーフの缶、そしてビールだ。
俺はミルクを出すと、テーブルの上においてあったパンをかじる。
いつもの朝だ。
何の変哲もない。
「ザッツ! ザッツ・グレイヴァーはいる?」
唐突に、女の声が割って入った。よく知った声に、俺は苦笑する。
「なんだ、マリア。珍しいじゃないか」
俺の声に反応して、扉を開けて一人の少女が顔面蒼白で飛び込んでくる。
父親の違う、俺の妹だ。金髪に青い瞳で、ふわふわしていて実にかわいい。まあ、俺が言うのもなんだが。
しかし、ここ最近は学校が忙しくて、ろくに朝は顔も見ちゃいなかったんだが。
俺の事務所まで来るなんて、一体どういう風の吹き回しだ?
「ザッツ兄! 大変だよ、ラルフ兄さんがいない」
「……兄貴がいないのは、それこそ今に始まったこっちゃないだろ」
俺は、無造作に伸びた髪を後ろで結わえると、俺の半分ほどしかない背丈のマリアの頭を、ぽんぽんと叩く。
ラルフってのいうは、俺の母違いの兄だ。
こちらは銀髪碧眼の、とんでもない美形なやつだ。男の俺から見ても、兄貴はちょっとだいぶ、カッコイイ。
若いながらも、俺たちの事務所の社長だし、仕事で居ないなんてのはしょっちゅうだから、マリアの騒ぐ意味が分からないんだが。
それとも、なんかヤバイ事件にでも巻き込まれたのか?
相変わらず。
「ああもう、ガキ扱いすんなって! 居なくなり方がおかしいんだよ。日記がないんだ。あたしの」
その言葉に、俺は顔から血の気が引いた。
二人して、顔面蒼白になって、お互いの顔を見合す。
「なに、書いた」
「……学校のこと……」
ガタガタと震えながら、マリアが呟く。
「まさか、誰かにいじめられてたか?」
「う、ううん。それはさすがに……。でも、からかわれることは……。兄貴たち、目立つし」
「書いたか?」
「……すこし」
俺は、腕を組んで唸った。
「他には?」
「これが一番やばい……。少し、気になる奴のこと、書いてあって」
その言葉に、今度は俺が色めき立つ。
「お兄ちゃんは許しませんよ!?」
「そんなんじゃないんだって!!! 面白い奴で、話したこともないから、ただ友達になりたいな、って、そんだけなんだ!!」
ああ、妹にもついにそんな奴が!!
なんていってる場合ではない。
これはやばいぞ。
仕事どころの騒ぎではない。
「マリア、許すから武装しろ。俺も支度する。とにかく急げ!」
「あ、あいさー」
そうして、俺たちは二人で、慌てて普段愛用の武器を手に取ると、ホバークラフトに飛び乗った。
「ああ、ちょっと遅かったかも……」
マリアの学校に向かう途中、ところどころに薬莢が落ちているのを見つけて、マリアがさめざめと呟く。
「祈っとけ。少なくとも、『壊滅』なんて事態だけは避けたい。せっかく復興してきてんだ。やっと始まった学校だ。せめてお前だけでも、学は持っててもらいたい」
「ラルフ兄貴が覚えてればいいけど、それ……」
二人して憂鬱になりながらも、俺はホバークラフトのハンドルを左右に切っていく。
目指す学校は、もう目の前に見えていた。
まだ、崩壊もしていないし、煙もあがっていないし、爆発音もしてこない。間に合った、と思ったところで。
突然、校舎のあたりで火柱があがり、悲鳴があがる。
「……ザッツ兄……まだ無事っぽいけど、今の……」
「ま、まだ間に合うから!! 急ぐからつかまっとけ!」
青ざめるマリアを励ましながら、俺はさらにアクセルを踏み込んだ。
ようやくたどり着いた学校は、まだ形を保っていた。
ところどころ、校庭に穴が開いてはいるが、校舎は原型をきちんととどめている。
「くおらラルフ兄貴!」
俺とマリアが、慌ててマリアの教室に入り込むと。
そこには、全開の笑顔で教室のみんなに話しかける、一人の男の姿があった。
まごうことなき、俺たちの兄、ラルフだ。
この笑顔の時はまずい。確実にキレている。
「兄貴。よく聞け。マリアがお前に意見があるそうだ」
最愛の妹の姿を見て、さすがにラルフの動きが止まる。
その瞬間、わあっとクラスにいた子供たちが、泣きながら教室を飛び出していった。
トラウマになりませんように、と祈りながら、俺は再び兄貴に視線を戻す。
「ザッツにマリアじゃないですか。どうしたんですか?」
にはっと笑った顔は、まさに大天使様だが、いまのこいつは確実に堕天使様である。
まったく、俺たちに関わるすべてのことに、理性を失う癖だけはどーにかしてくれ!!
「ら、ラルフ兄貴、日記読んだんだね?」
マリアの言葉に、ちょっとラルフ兄貴がひるんだ。
よし、押せマリア!
「……そんなことするラルフ兄貴、嫌い……」
その瞬間、ラルフ兄貴がびしっと固まった。いまだ!
俺はホルスターから銃をさっと取り出すと、撃鉄をあげ、兄貴に向けて、発砲する。
右手で構え、左手で流すように撃鉄をあげて、数発打ち込んでから。
額のあたりが真っ赤に腫れあがって、兄貴はばったりとあおむけに倒れ、そのまま動かなくなった。
「うはー。ザッツ兄の腕はさすがだね。あのラルフ兄貴を一発かあ」
「お前の一言で、気を失ってたからな。当たってよかったよ」
俺は、ふうっと息を吐いた。
もちろん、俺が撃ったのは「ゴム弾」である。火薬で爆発させてるから、さすがに威力はそれなりにあるが、殺傷力はゼロに近い。
ピンホールショットと言って、同じ場所に正確無比に打ち込んでいく手法だが、これを額の一点に集中して打ち込んでやった。
こうでもしないと、あの兄貴を止めるのは難しいんだ。
なにせあんなキレイなナリして、格闘武術に剣術の達人だからな。
普段の兄貴なら、普通の弾丸ですら切り落としてしまう。
すぐ側で、子供たちの歓声が聞こえはじめた。
とたんに囲まれ、俺の銃にキラキラした瞳を向けてくる。
教育上よろしくないので、俺はすぐにホルスターに銃をしまうと、そそくさと場を逃げ出した。
なんか、「きつつき」って呼ばれてるらしいんだが、俺。
……まあ、ピンホールショットが、あのくちばしで同じ場所をガンガン叩くのに似てるからなんだろうが、それもどうだろう……。
子供のネーミングセンスは、やっぱり今ひとつ分からない。
「やーみなさん、お騒がせしました。回収していきますんで、あとはよろしくお願いします」
俺はそういってぺこりと挨拶をすると、子供たちは何事もなかったかのように、わらわらと教室に戻ってくる。
「さ、マリア、今日も元気に勉強してくんだぞ」
「あいさーザッツ兄。あとのフォロー頼んだ」
「おうよ。んじゃなー」
俺が校舎の外に出る頃には、学校はまったく普段通りに戻っていた。
週に一度はこの騒ぎである。
いい加減、学校もなれてしまっていて、最近では校長にまで、ちょうどいい実践訓練にもなるから、どんどんやってくれ、とまで言われている。
ああ、なんて不憫な子なんだ、マリア。
このせいでいじめられなきゃいいけど。
しかし、このラルフ兄貴の妹、弟バカっぷりにも参ったもんだ。
「ああ、マリア……お兄ちゃんは許さんぞう」
気絶したまま、なおもうわごとのように言い続けるラルフ兄貴に。
俺は、もう一発至近距離から銃を一発ぶっ放して、黙らせてから。
事務所に向かってホバークラフトを走らせた。
これが、俺の日常で日課。
毎朝、ではないが、ほぼこれで正常。
だから俺たちの事務所は、いつだって閑古鳥だ。
たまには、まともに仕事さしてくれよ。
忘れちまうなよ、兄貴。
俺たち、トレジャーハンターなんだぜ?
学校の校舎には、ハントするもんがなんにもねえんだからな。
だが、俺は知ってる。
多分、同じ朝が明日も明後日もやってくると。
……これを、幸ととるか不幸ととるかは……。
今の俺には分からない。
おしまい。
***************************
同じく転載です。
07年10月5日UP。
えーと、ちょっと趣向を変えたお題小説です。
もともと私が書きたいな、と暖めていたお話の登場人物たちに、ごそごそと動いてもらいました。
この話だけでは時代背景が分かりづらいでしょうが、近未来SFなお話です。
ちょいと設定いじってますが、おおむねこんな感じで。
ちょっと反則気味ですが、たまにはこんなのもありってことで許してくださいませ……。
ちなみに元の小説のタイトルは「H.E.HUNTER」。
「ホームエレクトロニクスハンター」→邦訳→「家電ハンター」(笑)だったりします。
ま、このお話の長編はまたいずれ。
ちなみに今回のお題は「日記」「きつつき」「冷蔵庫」でした。
きつつき無理やりすぎ……。
| 固定リンク

コメント