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【短編小説 6】世界樹の勇者

たとえば朝目が覚めて、目の前に明らかに二足歩行の犬らしきものが現れて、「あなたはこの世界を救う勇者です!」とかいいだしたら、あなたはどうするだろうか?

彼女、福原アリサは、たったいま現在、まさしくそういう状況に陥っていた。
目が覚めたら、目の前にいるのは変な犬。
二足歩行。手には虫眼鏡。姿格好は、どうみてもシャーロック・ホームズのあの格好の犬。

それが、目をキラキラ輝かせて「さあ、僕と一緒に世界を救おうよ!」と、その台詞を言ったまま、固まっているのだ。

数分間、彼女は寝起きの頭でぼんやり考えていた。
非常に不機嫌そうに眉間にしわをよせ、まじまじとその犬らしいものを見つめる。

その沈黙に耐えられなくなってきたのか、その犬らしいものが、だらだらと汗をかき始めた。
「……ええっと……」
いい加減、かなりムリのある格好で止まったまま、その犬らしいものは困ったように声を上げた。
「ああ、ごめん。世界とか意味理解できなかった。何あんた、あたしの幻想?」
「い、いやうん違うよ? ボクはドグマ。この世界の危機を察知して、勇者である君のお供をしにきたんだ」
ようやく会話が進み、心底嬉しそうにその犬らしきものが説明してくれる。
「ドグマ……あんたが悪役みたいな名前ね。んで、あんた犬? なんで二足歩行なの? まあいいけど、あたしが勇者で、世界を救うのは分かったから、具体的にちゃっちゃと説明してくれる? 明日テストだから、早く終わらせたいんだよね」
まったくと言っていいほど表情を崩さないままに、説明を促すアリサに、ドグマが再び汗をだらだらと流しだす。
「……あ、うん。物分りが大変いいのと、現実適応能力がめちゃ高いのは分かったから、もうちょっとリアクションしめしてくんないと、ボクどうしていいやら……」
しどろもどろのドグマが、おたおたしながらアリサを見る。
「何よ、贅沢ね。特別驚きもせずに話し聞いてやるってんだから、おとなしく話せ。じゃなきゃ私、また寝るよ?」
「あう。夢だと思ってるわけでもないんだね……。えっと、とりあえず、ボクと旅に出よう!」
もはや抗議はムリと悟ったのか、ドグマはむりくり笑顔を作って、努めて明るく言い放った。

「1日で済む? もし済まないなら、まず友達にノートとってくれるように頼まないと。だいたい、何ヶ月もかかって、こっちに帰ってきたらいきなり長期欠席で留年とかしたら、あんた逆さにつるしてヘリに括り付けるけどいい?」
さらっと恐ろしい台詞を、ほとんど無表情で告げるアリサに、ひいっと小さくドグマは悲鳴をあげながら、見るも気の毒なほどに怯えながら、説明をする。

「だ、だだだだだだだだ大丈夫……。これから行く場所は、こことは次元がずれてて、この世界の時間にはほとんど影響しないところだから……」
ガタガタと震えながら、しどろもどろに説明するドグマを一瞥して、アリサはふむ、と手をあごに当てる。
「まあ、ならいいわ。んで、どこに旅に出るの?」
「か、軽……いや、り、理解していただいて恐縮です……」
 突然低姿勢になりながら、ドグマはごそごそと腰にさげた小さな袋から、紫に輝くオーブを取り出した。
「このオーブは、世界樹の場所を指し示してくれるオーブなんだ。世界は今、この世界樹が弱ってる影響で、少しずつおかしくなり始めてる。だから、世界樹に行って、その原因を取り除いて欲しいんだ」
ドグマの説明に、アリサは再びフム、と頷いた。

「なるほど。んじゃ旅の準備するから、お金頂戴」
あまりにあっさり納得されて、今度は思わずドグマが聞き返してしまう。
「は!? え、い、今のでいいの? 詳しい説明とか、まだあるんだよ?」
「じゃあとっとと説明。もったいぶってると、服をメイド服とかにしちゃうよ?」
「あ、あうあうあうあうあ、それだけはああああ!!」
ドグマがしどろもどろになって、あとずさる。
「わ、分かりました! オーブは、「虹」のヒカリを当てないと力を発揮しないんだ。だから、まずは「虹」を探さないといけないんだよ。で、オーブの力で、今度は遺跡に入らなくてはいけない。その遺跡は、オーブが示してくれる。その遺跡を抜けると、世界樹があるんだ。そしたら、世界樹に巣くう宿木を抜いてくれれば、万事解決だよ!」
かなりはしょっているであろう説明を、一気に話してから。ドグマはドキドキしたようにアリサの反応を見た。
「なるほど、分かった。んじゃとりあえず、庭へ行こう」

あっけにとられるドグマを尻目に、アリサはすたすたと自分の部屋から出ると、庭に出た。
そして、ホースから水を出すと、ホースの口をしぼって、太陽に向かって霧状に吹かせる。
「ほら、虹」
「は?」
「だから虹。ほら、とっととオーブ出して、虹にあてなよ」
「え、えう?」
まったく予想外の展開に、おたおたするドグマに業を煮やして、アリサはドグマからオーブをひったくると、そのホースの先にできた虹にオーブをかざす。
すると、オーブは柔らかい光を湛えて、やがてある一点に向かって光が一直線に伸びていった。
「あううう、こんなのアリなんだあ。ほら、虹ってさあ、もっとこう、空に大きくかかってさあ……」
小さく呟いて打ちひしがれているドグマを無視して、アリサはそのまま光を目指してスタスタ歩き始める。

たどり着いたのは、近所の公園。そこの遊具の、コンクリート製の山に、光は当たっていた。
「……あんたたちの世界のいう遺跡って、おそろしく理解不能だわね」
「君に言われるとは思わなかったよ……」
ドグマはすでに、あまりの酷い現実に、ついていけないかのように投げやりな言葉を返してくる。

結局、その山の遊具の中をくぐると、外の景色が一変していた。目の前にあるのは、上をどれだけ振り仰いでもてっぺんが見えないほどの、巨木があったのだ。
「あううう、こんな簡単に世界樹とかありえないから……」
「うるさいよ、ドグマ。ほら、宿木とかいうの、どこ?」
すると、そのオーブが再び光って、目の前に枝に光を当てる。
「ここらしい。んじゃ」
そういって、アリサは一体どこから取り出したのか、どるるるるるん、という音を響かせた。
「チ、チェーンソー!?」
ドグマが心底驚いたように、ずざざあっと飛びずさる。
「ほら、どいたどいた」
物凄く無造作に世界樹の枝に近づくと、彼女はぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ、という音を響かせて、あっという間に宿木を切断してしまった。

「ほい仕上げ」
そういって、今度はその枝にガソリンをかけると、ぽい、と火をつけたライターを投げつける。
それで、宿木はあっという間に消し炭になった。

「はい終わり。んじゃね、ドグマ。世界は救ったわ」
最後まで、ほとんど終始一貫無表情なまま、アリサはあっさりと世界を救ってしまったのである。
ドグマは、狐につままれたような顔をして、そのまま世界樹の元に残って彼女を見送った。
そして、別れ際に彼女に渡したものは……。

「アリサ、おはよう。ってあんた、どしたのそれ」
その別れから10分後、いつものように学校に行く道で、いつものように出会ったクラスメイトに、アリサは声をかけられていた。
「ああ、ミサりん、おはよう。うん、さっきお手軽簡単、5分で世界を救ってきたら、もらった」
「は? あんた相変わらず、意味わかんないわね。なんでもいいけど、それ、学校にしてって怒られるんじゃない?」
「別にいいんじゃない? せっかく世界救ったんだし、一日くらいは余韻に浸るよ」
「……はあ、まあいいけど。んじゃ、あんま近寄らないでくれるかな。あんた目立ちすぎだから」
「そうか? まあいいじゃん。世界は平和なんだから」
そういって、ようやくにんまり笑った彼女の背中には。
あのドグマが羽織っていた、タータンチェックのホームズが着用しているような、マントがたなびいていたのである。

無表情なクールビューティーが世界を救った、という噂は、もちろん流れるわけがなく。
今日も世界は平和である。

おしまい☆

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同じく転載です。
07年9月17日UP。
今回は、終始一貫してあほうです(笑)。
書いてる自分がめっちゃ楽しかったです♪
本来は、こういう文章を書いていることのが多いです。
今まで書いていた文章のほうが、珍しいんですよ~。
ので、きらーくに書いてました☆

今回のお題は「ノート」「虹」「遺跡」です。
意外とムリせず、さらっといけた感じで。

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